水道の民営化

雑談

 
 
昨年水道法改正案が国会で可決されてから、今年の地方選挙の争点にもなっている『水道の民営化』。
私たちにとって非常に身近な問題でありながら、水道の民営化とはどういうものなのか、漠然とした不安をおもちの方もいるのではないでしょうか?
今回は、今後日本の水道はどうなるのか?民営化しても大丈夫なのか?という疑問について調べてみました。
 

水道民営化への流れ

 
水道を民営化しようという動きは、今になって始まったことではありません。
2013年4月にアメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で行われた講演で、麻生財務大臣兼副総理は「水道民営化を目指す」と断言しています。これまでに「三公社五現業」と言われる「国が経営に携わる事業」が民営化されてきました。国鉄はJR、煙草はJT、電話はNTT、郵政はJPによって民営化され、これに続いて日本は水道事業の民営化を目指すと宣言しました。
そして2018年12月6日、水道事業の運営権を民間に売却できる仕組みを導入することなどが盛り込まれている、水道法改正案が可決しました。これは、同年の6月に発生した大阪北部地震の際、老朽化した水道管による被害が大きかったことから、一気に審議入りとなっていました。
 
なぜ、日本は水道の民営化を急ぐのでしょうか?
その背景には、日本が抱える2つの大きな問題があります。
 

1. 水道の深刻な老朽化

 
日本の水道設備の多くは、高度成長期である1960年~1970年代に建設されています。水道管の耐用年数は40年とされており、この年数を過ぎている水道管は現在日本に約10万km分もあるそうです。この水道管を更新するためにかかる費用は、1kmあたり1億円以上するというのだから驚きです。あちこちで水道管の老朽化が進み、更新が全く追いついていないのが現状です。
水道事業の運営や更新費用は、徴収された水道料金から賄われるので、水道代が値上げするのも納得ですね。
 

2. 人口減少と人手不足

 
日本の人口減少により、水の需要が減ることで徴収される水道料金が減少しています。水道料金を値上げしても、自治体の水道事業の約3割は赤字になっているそうです。このまま人口減少が続くと、水道代もどんどん値上げすることになるという問題があります。
また、高齢化に伴い人材の不足も深刻な問題となっています。
 
これらの問題を鑑み、自治体での運営には限界があることから民営化の動きが進んでいると言えます。
 
「公的運営から民間運営にすることで人材の流入が進み、人手不足の解消につながる」「自治体よりも民間企業の方が、コスト削減のノウハウがある」「民間企業の参入で競争原理が働き、さらなるコスト削減につながる」このような主張から、水道事業に民間企業が参入できるよう法を改正しよう、というのが今回の改正案可決の大まかな流れです。
 

水道の民営化はいつから始まるの?

 
水道法改正案が可決されたものの、具体的に「いつから民営化される」というのは定められていません。
郵政民営化の時も、法案成立からおよそ2年の時をかけて民営化が実現しました。今回の水道民営化も、まだ先の事だと言えるでしょう。
 
そしてこの水道法改正案、民営化がいきなり始まることを表しているわけではありません。
法案の具体的な内容を見ると、以下の5つの点がポイントとなっています。

1. 関係者の債務の明確化 …法を整備する側と運営する側に分け、役割を明確にする
2. 広域連携の推進 …地域によって業務を統廃合することで、業務を効率化する
3. 適切な資産管理の推進 …老朽化した水道設備を適切に管理する
4. 官民連携の推進 …民間企業への委託を可能にする
5. 指定給水装置工事事業者制度の改善 …5年毎に指定事業者を更新し、レベルを維持する

これらの要点を見ると、どこにも『民営化』という言葉はありません。
あくまで、民間企業が水道事業に参入できる仕組みが取り入れられただけなのです。この法案が可決したからといって、全国で水道が一斉に民営化されるわけではありません。自治体がそれぞれの状況により、民間に事業を委託する選択肢ができたと捉えることができます。
 

民営化されるとどうなるの?

 
実際に、水道事業が民間企業に委託されるとどうなるのか、不安に思う方もいると思います。
民営化された場合のメリットとデメリットを考察してみました。
 
・メリット
まず、水道事業を売却することで売却益が自治体に入ることになるでしょう。委託された民間企業が人を雇うので、新たな雇用の創出にもつながります。民間企業が参入することで競争の原理が働き、サービスの質の向上や料金体系の変化も起こるかもしれません。
そのような中で、消費者は利用する水道会社を選択することができるようになります。電力会社を選べるように、水道についても質の良い低価格な水道会社を自分で選ぶことができるようになるのは、大きなメリットのひとつかもしれません。
新たな水道会社の参入により、法人税の税収増加にもつながるでしょう。
 
・デメリット
民間企業の目的はあくまで「利益」です。利益が出ないと当然、水道料金が値上がりします。水道管の補修や更新といった「利益を生まない仕事」が軽視され、今以上に老朽化が深刻化する恐れもあるでしょう。人口減少が著しい地域や過疎地域では水道事業の利益が見込めず、地域格差が拡大することも考えられます。
民営化することで、こうした「利益がでない」場合の弊害が大きくなることは、対策が必要なデメリットとして挙げられると思います。
 

海外ではどうなっているのか?

 
国際公務労連(PSIRU)の調査によると、2014年時点で35か国の180の自治体において、水道及び下水道事業を民営化から公営化に戻しているとのことでした。世界の潮流は、「再公営化」の動きが見てとれます。
 
民営化したことにより大きな事件となったのが、1999年のボリビアでの事例です。
ボリビアが財政難に陥った際、ボリビアのコチャンバ市の水道事業に参入したアメリカのベクテル社は、当時の水道料金を倍以上に値上げしました。住民が起こしたデモを政府は武力で鎮圧し、多数の死傷者を出す事件となりました。
 
また、フランスのパリでは2010年に水道を再公営化しています。民営化の時は企業秘密として公開されなかった投資計画や財政報告も公開され、内部のデータベースも共有されました。その結果、45億円のコスト削減に成功し、水道料金の8%値下げにもつながりました。
 
このような海外の動きを見ると、日本の民営化への動きには疑問を感じる人も多いでしょう。
改正案が可決されたものの、一度に民営化が進むわけではありません。現在も多くの地域で水道民営化への論議がなされています。ぜひこの機会に改めて、水道民営化への意見に耳を傾けてみてはいかがでしょうか?
 
 
 
 
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Team ladybird
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